短編集『小さな冬の忘れ物』前書きどうも0Zです。さてと、短編としては珍しい続編。 いや、『亜利栖』も続編ある筈なのですが… ちなみに言うと『epiLogue~誓い~』にも続編が、でもこれは短編ではなく通常版ででます。 前作読んで無いのにここに迷い込んで来た、って方 出来れば前作読んだ方が嬉しいですし、すっきりします。こちらからどうぞ。 ではまぁ、一応恒例なのでキャラ紹介。 主人公「進藤直行(シンドウ ナオユキ)」 高校1年、ちょっと意地悪(小鳥に対して)な男の子。 小鳥の幼馴染兼彼氏、だがこれと言って変わらず小鳥をからかっている。 「小島小鳥(コジマ コトリ)」 高校1年、直行の幼馴染兼彼女。ぽけぽけした天然系の女の子。 直行にからかわれてばかりでむっとしているが その反応こそが一番楽しまれているのに相変わらず気付いていない。 「斎藤大樹(サイトウ ヒロキ)」 同じく高校1年で直行の友人。クラスのムードメーカーで人気者。だが彼女はいない…今作ではもうちょい彼の人気ぶりを発揮させたい… 「飯村春奈(イイムラ ハルナ)」 同じく高(ryで小鳥の友人。さっぱりして男女共に人気がある。相変わらず誰かに片想い中の様子。全員彼女には頭が上がらない。 ――――――――――――――――――――――――――――――――― 温暖化温暖化と騒いでいた癖に何故冬はこんなにも寒いのか。全くもって布団が恋しい季節になったものだ。 なのだが…「♪~」この寒い中朝っぱらから電話をかけてくるような奴を俺は一人しか知らない。 布団の中で丸まっていた俺は出来るだけ冷めない様にと一瞬だけ手を伸ばし音源である携帯を一気に取る。 キンキンに冷えきった携帯が何とも恨めしい所だ。そして液晶には予想通りの「ことり」の文字。 布団に丸まったまま通話ボタンを押す。「も?」「ナオ君起きてるー?って"も"って何?」 「もしもしの略だよ。」「そんなの分かんないよー」「分かれ。」「むー」「切るぞ。」 「あーちょっと待ってよ。」「あー眠い。」ピッ。問答無用で通話を切る。「♪~」 「…何だ?」「ナオ君本当にちゃんと起きてる?」こいつは全く… 電話に出てる時点でちゃんと起きてるって事に気付かないのだろうか? 「あーそうだ、寝てる寝てる。ぐーぐー」「あわわ、駄目だよナオ君、もう朝なんだから。」 俺の3歳児でも分かる狸寝入り(最早そうとも呼べないレベルの)に騙される小鳥って一体… 「うるせーな。そんな大声出さなくても起きてるっての。」「本当に起きた?」「起きた起きた、今度こそ本気で起きた。」 「良かった。」「じゃあ切るぞ。」「うん、じゃあ出来るだけ早くしてね。ちょっと、寒いし。」ん…ちょっと待て。 「おい小鳥、お前今何処にいる?」「ナオ君の家の前。」早ッ!!「お前ね…俺の準備が終るまでずっとそこに居る気?」 呆れて物も言えない。俺は今起きたばっかりだってのにもう家に来てるのか… 小鳥の早起きにも磨きがかかったものだ。しかしまぁ良くこんな寒い日に早起きして尚且つ玄関前で待つ気になるな。 俺は通話したまま布団と別れを次げベッドから立ち上がり部屋を出る。 「うーん、ちょっと寒いけど。」本気で呆れた奴だ。この糞寒い中待つと宣言する上におまけにイマイチ質問の答えになってない。 俺は冷え切った床を裸足で歩きながら玄関へと向う。「そりゃ寒いに決まってるだろ、お前は馬鹿か?」 「馬鹿って言わないでよー」俺は携帯を耳から離し、玄関を開ける。「家入れよ。」 突如電話をしていた相手が目の前に現れて小鳥は実に間抜けな顔をする。 「あっ、本物のナオ君だ。」「俺は芸能人かっての。良いから入って待ってろって。」 「うん、おじゃましまーす。」家の中が暖かいのが嬉しいのか、笑顔で俺の家に上がり込む。 「そんなに嬉しいか?」「だって、ナオ君の家久し振りだもん。」「…そーだっけ?」 予想していたのとは少し違う理由だったのでリアクションが冷めた物になってし舞った。 そう言えば、そうだ。小鳥は毎日俺を迎えに来るのに家の中にまで入ったのはもうずっと前の事だ。 取り合えず外よりはましだとしても十分に玄関は寒い。俺達はリビングへと向う。 「所でお前何時に起きてんだよ。」「今日はえーっと、5時半。」「はっ?ゴジハン?」 思わずカタコトになってしまう程の早起き具合だ。「お前…ナリは小さいのに中身は年寄りだな。」 「小さいって言わないでよー、気にしてるんだから。それに年寄りってのも、うーん、えっと…???」 どっちに突っ込んで良いのかこんがらがっている様だ。ある意味器用な奴。 「兎に角、もうちょい待ってろよな。ぱぱっと準備してくっから。」「うん。」 それからリビングヘ向かい朝食を取る。小鳥は俺の母さんに挨拶をして俺の正面に陣取る。 にこにことずっと俺の朝食シーンを眺めている。物凄く食い辛い。笑顔な筈なのに"早く食べろ"と脅迫されている様で俺はペースを上げる。 全く何時の間にそんなスキルを習得したのやら…しかしだ 「ナオ君、そんなにがっつくと身体に悪いよ。」「ぶもはぁっ!?」何だこいつは!! 人にプレシャーをかけておいて急ぐと身体に悪いなどと…まさかこれは確信犯か!? 「あわわ、汚いよナオ君。」「いやこれはお前が…スマン。」考えて見れば俺が勝手に勘違いした訳だし、小鳥のせいにするのはお門違いだろう。 小鳥はさっとティッシュを取って俺の口から大脱走した飯達を拭き取っている。こう言う行動は早いもんだな。 俺は残りの飯を素早く平らげ身支度を簡単に済ませる。「行くぞ小鳥。行ってきます。」「うん、おじゃましました。」 「行ってきますで良いわよ小鳥ちゃん。」母さんが何やら奥深そうな発言をしてにっこりと笑う。 「はい、じゃあ、行ってきます。」「はい、いってらっしゃい。」 ――――――――――――――――――――――――――――――――― ぎゅむぎゅむと新鮮な雪を踏みながら学校へと向う。雪こそ降ってないのだが気温自体が低いので十分に寒い。 俺はまだ良いとして「お前寒くないのか?」そう言って、蹴ったら簡単に折れてしまいそうな程細い小鳥の足を見る。 冬服に衣替えしたと言ってもスカートまでは変わらず短いまま。まぁ一男としては嬉しい限りなのだが… 「うーん、やっぱり寒いよ。」「だよな。」寒くない筈が無い。何せ生足。まぁ一男としては以下略 「じゃあ少し急ぐか?学校なら暖房効いてるだろ。」「うん。」 そう言って俺達は時間には大分余裕があるにも関わらず学校への道を急いで行く。 しかし、路面状況が悪く大分足場が滑る。「おい小鳥、滑るから足下気を付け―――」 「きゃっ!!」時既に遅し、ぽてんと小動物が倒れたかのような静かな音をたてて小鳥はコケた。 「おいおい、大丈夫かよ…」後ろで尻餅をついている小鳥に手を伸ばしてやるが、 「!!」一旦気付いてしまえばもう忘れ様としても気になって仕様が無い。俺はある1点を見つめ硬直する。 「どうしたのナオ君…?」小鳥は俺の硬直した視線の先を伸ばしていき辿る。 そしてそれが自身のスカートの中に到着した瞬間「きゃーーー!!」「わっ!馬鹿暴れんな!!」 何とか踏ん張ろうと力を入れたのが仇になったのか、足元が滑って俺も豪快に尻餅をつく。 「糞、いてぇ…」「ナオ君のえっち!!」怒りか羞恥か、耳まで真っ赤にさせて呶鳴りつける。 「いや、そりゃ俺が悪…くない!コケるお前が悪い。見せるお前が悪い!!」「ッ、見せて無いもん!」 「いーや、あんな典型的なコケ方しやがって。」「見せて無いもん!!」 それから朝から"見せた見せて無い"と言うアブナ気な口論がヒートアップして行く。 「何を見せたって?」「「ッ!!」」俺達は瞬間固まる。聞かれた!?もしかしたら見られた!? 急に冷や水をかけられた様に冷静になった俺は馬鹿な事をしたと後悔する。 「大樹か。いや、なんでもねーよ。」「ヒ、ヒロ君おはよう。」誤魔化し度MAXな俺達に大樹はははーんと唸る。 「朝から元気だねお前達も。しかも野外ときたもんだ。」「…馬鹿か、お前は。」 「馬鹿とは心外だな。この前のテスト、俺に負けただろ。」「そう言う事じゃねーよ。」 「僻むな僻むな。凡人には敵わぬ領域と言うものがあるのだよ。」 「こいつ、1回勝ったぐらいで…」点数自体はとても喜べるような物でも無いのにここまで舞い上がれるのはこいつぐらいでは無いだろうか? まぁその矛先が俺で無ければ明るくて面白い奴と思えるのだが… 「兎に角、君らの間に水を注すような真似は俺には出来ないから、俺は消えるとするか。じゃーな。」 そう言ってぱっぱと先に行ってしまった。何なんだアイツは… しかし大樹の乱入のお陰で小鳥も先程の事はすっかり忘却の彼方の様で何時も通りに戻っている。 「ナオ君、手繋いでも良い?」「駄目だ。俺まで巻き添えにするつもりだろう。」 先程の様に小鳥のせいで俺まで転ばされてはかなわない。しかもその回数もきっと半端では無いだろう。 「ちゃんと支えてよー」「俺は保護者か。1人で歩けぃ。」「むー、分かった。」 それから小鳥は転ばない様に慎重に歩き始めた。それはまるで産まれ立ての小鹿の様でそのさまを見て笑っていると俺の方がコケてしまった。 「ナオ君大丈夫?」折角慎重に進んでいたのに俺の所まで戻って来て心配をする小鳥。 「あぁ、大丈夫だ。」全くもって格好がつかない恥ずかしさから立ち上がり一人すたすたと歩き出す。「あっ、待ってよー、ぅきゃん!?」 …これだから冬は嫌いだ。 ――――――――――――――――――――――――――――――――― 「学校って暖かいね。」「そうだな。」何とか学校に辿りついた俺らはまだパラパラとしか人が居ない教室で温もっていた。 しかし早くに学校に来てもこれと言ってする事が無い。全くもって暇だ。 「ふわぁ、暖かいと何だか眠くなってきたな、おやすみ~」「まだ寝るのナオ君!?」 そのまま自分の机にくっ伏した。一旦寝ると決めたらもう何があっても俺は寝る!そう決めた。 「ナオ君、起きてよ。」ゆさゆさと俺を揺さぶる小鳥。どうせ小鳥の事だ。俺を起す理由など無いのだろう。 それで俺が起きて「で、何のようだよ?」って聞けば「えっと、うーん、別に用はないんだけど…」って言うに決まってる。 と言う訳でもう頭の中でその出来事は終了、現実でまで起す必要は無いだろう。俺は小鳥を無視して眠る。 「駄目駄目、直行はそんなんじゃ起きないって。」何やら割って入って来た嫌な声。 にやにやと悪意を持って接近して来るのが見なくても手に取る様に分かる。このままでは何をされるか分かったもんじゃない。 「このボンクラにはこれぐらいしないと…」「はいはい俺メッチャ起きてます!もうフルスロットルですよ春奈さん!!」 がばっと跳ね起きて見ると手に上履きを持った春菜の姿があった。理由も無く起される上に叩かれるなんて何たる理不尽。 そう考えると何だかむかついて来たぞ。俺も反撃態勢にはいる。 「しかし、その手に持ってる物は何だよ。上履きって足に履くもんだろ?それを手に持ってるって…なんだお前は四足歩行か!?」 「こうする為に持ってんのよ!」ばこすっ!どうやら反撃は反撃返しに打ち消されてしまったようだ。全くこれでは叩かれ損だ。 「いってーな。普通スリッパだろ。または何処から取り出したのか分からないハリセン。」 「あんたそれ馬路で言ってんの?」「半分」「じゃあ半分馬鹿だ。」「失礼な。俺はとても真っ当な人間だぞ。」 「何処が?」段々とヒートアップして行く2人の口論。小鳥は自分が引き金でこうなってしまったと責任を感じているのかあわあわと戸惑っている。 「何処がって、"真っ当"てのは全体を見て言うもんだぜ。それに部分を求めるなんてお前も馬鹿だな。」 「お前ら、その辺にしといたら?小鳥ちゃんが困ってるぞ。」俺達は一斉に声の主の方を向く。 大樹だ。しかしここで小鳥の名を出すとは確かに効果的だった。「まぁ、スマン。」「悪かったわよ。」 まぁそれ程本気で怒ってるという訳でもないので簡単に後始末は出来る。 その後は結局俺達は何時もの4人で話をする事となる。 ――――――――――――――――――――――――――――――――― 昼休み。4人で弁当を食べながら話をする。「はい、ナオ君。」そう言って小鳥が俺に小さな箱を差し出す。 「おっ、わりぃな。」弁当箱だ。とは言っても俺だって家から弁当を持って来ているので量はとても少なめでおかずが1~2品程度である。 これは少し前から小鳥が俺に弁当を作る様になった為だ。最初はとても酷い物であったが最近では安心して食べられる様にまでなった。 「今日は何だ?」「えっと、卵焼きとタコさん。」「タコ?」蓋を開けて見ると卵焼きとタコ型のウインナー。 まぁ何と言うか、典型的なおかずだな。「なるほど、このウインナーの着色料が身体に悪いってのは知ってる上でやったな?」 「えぇ?そうなの!?」「あぁそうだぞ。1本食えば寿命が一日縮まると言われている(嘘)」 「あわわ、それじゃ折角作ったけど…駄目だよ。」「何言ってんの?小鳥が折角作ったんだから直行の寿命一日なんて安いもんじゃない。」 「俺はウインナー以下か!?」「当然。」「お前ね…」とここで今朝の事を思い出し自粛する。 どうだ春奈。俺はお前より数段大人なんだよ!「まぁ別に気にすんなよ。どうせ嘘だし。」 さらっとネタばらしをしつつひょいっとウインナーを口の中に運ぶ。「えぇ?嘘なの?」 「当たり前だろ。俺の生命力はウインナー1本ごときには侵されん。」「良かったぁ。」 胸の前で手を合わせて何やら本気で嬉しそうにしている。馬路でか? 「しかし次の時間だりぃな。」これ以上の話の発展は無いだろう。とりあえず話題を変えてみる。 「次って終業式だよね。」「つーか校長の独演会だよな。」「ホントだよね。まいっちゃう。折角のクリスマスイヴだってのに。」 そう、今日は学校の終業式であり、12月24日クリスマスイヴでもある。 何故に23日休んでから出て来てまた休みなのか分からないがそう決まっているのだから仕方ない。 「お前がクリスマスイヴとか気にするってキャラかよ。」「別に良いでしょ。」 何かと反論してくるかと思ったが意外にも普通な返答だった。 「まぁアンタには小鳥がいるから良いかもしれないけどさ。」「なんだよそれ。」 「直行だって男だからねー。クリスマスにかこつけて何するか分かったもんじゃないよ。」「なっ、馬鹿かお前は。」 「ふふん、」なにやら鼻で笑った後鞄から携帯を取り出す。何だ何だ? 『俺、気付いたんだ。今まで気付かないふりしてたけど、やっと分かった。俺、小鳥が好きだ。』 「なあ゛っ!!」春奈の携帯からは何時ぞやの俺の声が流れてくる。「おまっ、何時の間にとったんだよ!?」 「いや、直行の後ろで堂々と。」「クソッ、テメェ消せ!いや寧ろ携帯ごと消す!!」 「ちょっ、止めてよ。」「それはこっちの台詞だ。馬路で消せッ!つーかなんでそんなもん今までとっておいてんだよ!?」 「だって、からかえるでしょ。今みたいに。」「ふざけんなよお前馬路で。」「ホントはそれだけじゃないんだけどね…」 「ん、何か言ったか?」「何でも。」「ってあぶねぇ、忘れる所だった。馬路でそれ消せッ!!」 「いやー、大樹助けて。」そう言って大樹の後ろに隠れる春奈。 「…スマン、聞いて無かった。」大樹はと言えばどうやら馬路なのかおとぼけ度100%だ。 そう言えばぼーっとしていたようないないような…まぁ兎に角だ 「で、何?」春奈の行動の意味が分からず呆けた顔をしている大樹をコッチに召喚せねばなるまい。 「まぁ即興でキャスティングするなら俺が悪役で春奈がヒロイン、んでお前がヒーローってトコだろ。」 「意味わかんねぇよ。」「ヒーローはヒロインを守る物でしょコラ!」ぺしんと大樹の後頭部を弾く。どんなヒロインだよ。 「ねーねーナオ君、私は?」もうおいしい役なんて残って無いのに期待で目を輝かせている。これはそもそも 「お前はテレビの前のちびっこだな。」「…はぇ!?」期待が裏切られ世にも情けない顔になる。 「お前、良く自分で悪役とか言ったな。」「その方が伝わり易いだろ。」「まぁ確かに。」 「ねー、ちびっこってどう言う事?」あぁ、周りがウザイ。「あのな?良いか良く聞け。ちびっこってのは何にでもなれる可能性を秘めてるんだよ。」 「そうなの?」「あぁ、自分のなりたいものになれる、最ッ高のポジションなんだよ。」 そう言うと簡単に騙されてくれる。こっちは解決か? 「まぁ、そう言う事ならお姫様を守ってやらにゃならんな。」こっちはこっちでノリの良い奴。 「さてと、じゃぁ話を戻そうか…」「ふふふ…」2人の間に不穏な空気が再び流れる。 「とっとと消せッ!!」「諦めが悪いわよッ!!」 ――――――――――――――――――――――――――――――――― 放課後、結局春奈の携帯の件については何も手を出せずに終わった。 全く、あんなもん取っておいて何が楽しいんだ。いや、まぁ俺をからかう良い材料になるか… 「さてと、やっと学校も終わったわねー」んーと伸びをしながら春奈が言う。 「所で、明日なんだが皆で何からやらないか?」唐突に大樹が一つの提案を出す。 「私は別に良いけど、そこの2人はどうかしらね?」ちらちらと俺と小鳥を見る春奈。 「べっ、別に何かするとかそう言う事はねーよ。全然オッケー!!」手をぶんぶんと振りながら否定する。 「あらやだ、何も言って無いのに、直行の頭ん中はどうなってのかしらねー。」 してやったりと口に手を当てて笑ってやがる。「お前なぁ!」ケラケラと笑う春奈の横、ふと小鳥を見ると下を向いておろおろしている。 こう言う時は困った時だ。そしてそれを言おうか言わないか迷っている時だ。 「なんだ小鳥、明日予定とかあるか?」「えっ!?ううん、別にないよ。」にっこりと笑ってみせるが何時もとは少し違う。 「そっか、じゃあ俺ら全員オッケーって事で。」手でオッケーサインを出して春奈に見せてやる。 しかし春奈は顎に手をやって何かうーんと考え込んでいる。 こいつの企む事は何かと功名だと言う事はもう実証済みだ。 「うん、じゃあ場所は直行の家で、良いでしょ?」「ん、あぁ別に。多分…」「じゃあ決定!!」 こうして明日のクリスマス会は春奈の企み(?)により俺の家で行なわれる事になった。 ――――――――――――――――――――――――――――――――― 翌日、12月25日(クリスマス) クリスマスにはうってつけ、自然からのプレゼントでも言うべきか、雪が降っている。 普段は何かとやっかいな物だが今日ばかりは雰囲気を盛り上げてくれる最高の調味料となる。 会は午後2時から、現在はまだ1時をまわったばかりと言う事で暇を持てあましている と言う事は無い。クリスマス会をやると言ったら母さんが妙に張り切ってその手伝いをさせられている訳だ。 もしかしたら春奈はこう言う事を予想していたのかもしれないな。全く厄介な奴。 と、ピンポーン、不意に呼び鈴がなった。流石に時間が早いからまだだろう。だとすると一体誰が? 玄関へと向うとドアの向こうには何だか見慣れた、そう毎朝見ている小さな影が…まさかな。 ドアを開けると、「メリークリスマス、ナオ君。」まるでハロウィンのテンションで挨拶をして来る小鳥。 「…早いな。」「うん、準備とか忙しいかなと思って。それに…」「それに?」 「私が何時も早いって事は知ってるでしょ。」「自慢気に言うなよな…」とりあえず玄関だとなんだろう。 「中入れよ。」「うん、おじゃましまーす。」それから残りの1時間は慌しく準備に費やされる事となる。 ――――――――――――――――――――――――――――――――― 「やっほー、小鳥、直行。」「うぃっす!」まもなく2時になろうかと言う時になって2人が一緒にやって来た。 「おう、ぎりぎりだな。まぁあがれよ、狭いけど。」「ホント狭いわね。」「まぁ玄関だからな。」 人が謙遜して言ってやれば2人してズカズカと攻撃して来る。「少しは遠慮しろよ。」 「何言ってんの、無礼講でしょ。」「なッ!」「な、何よ…」「まさかお前の口から無礼講なんて難しい言葉がでるとはぶげッ!!」 俺の台詞は春奈のボディブローによって阻まれた。「「おじゃましまーす」」 倒れる家主をよそに上がり込む他人。どんな構図だ… そうやって、俺に取っては幸先悪くクリスマス会はスタートした。 と言っても人数が人数だけにそれ程何かをするって程でもない。 何時も通りに4人で会話をするだけだ。只少し違うのは皆で囲んでいる食事が何時もより豪華なぐらい。 しかしそれだけでも意外と盛り上がるものでテンションは段々と上がって行く。 特にどでかいケーキを食べる時などはわざと大きさを変えてカットして取り合うゲームをするなどの白熱の盛り上がりを見せた。 食べ物の怨みって恐いしな… 「良しッ!一発芸大会だー!!」唐突に大樹が酒も飲んでいないのに酔っ払いの様なテンションで妙な事を宣言する。 「いや、無理だろ…」「ほんっと、ノリ悪いね、直行はぁ!そんなんじゃ世の中生きて行けないぞぉー!」 これまた酔っ払いとしか思えないテンションの春奈が訳の分からない人生論を諭す。 「じゃあお前らでやれよ。」「直行が最初じゃ無いとなー」「ねー」まるで双子のきょうだいの様に何故か息ピッタリの2人。 「何でだよ。」「だって俺ら、アウェーだし。」「ここは敵地か!?」全くもって意味が分からん。 「兎に角、会場主なんだから言い出しっぺみたいなもんだろ。」 「言っておくが、会の言い出しっぺはお前だ!さらに一発芸もお前だ!!」 びしっと指差して高らかに宣告する。「ったく、往生際が悪いぞー直行!」 「ちくしょう、離せこのヤロッ!なッ!2対1は卑怯だぞ、クソッ!小鳥助けろ。苦笑いじゃねぇ、助けろって!」 ――――――――――――――――――――――――――――――――― 日も大分傾き始め世界は夕日に包まれる。日の沈みが早い冬ならそれ程時間も掛からずに暗くなるだろう。 「いやー、直行がまさかあんな事するなんてな。」「ほんと、ムービーじゃないのが残念だけど…」 って待て「貴様ッ!また撮ったのか!!?」「良いじゃない、動きがなきゃ大して分からないってば。」 「やっぱり消す…逆パカしてくれるわ!!」「きゃー助けてー。」そう言って大樹の背後に隠れる。またか… 「あーもう良いよ、っつーかそろそろ暗くなるから帰った方が良いんじゃね?」 「んー、もうそんな時間?」「時が経つのは早いもんだな。」「何年寄り臭い事言ってんだよ。」 「まぁ冬の夜道は恐いから私はそろそろ帰ろっかな?ボディーガード付きで。」「へいへいお姫様。」 大樹ではボディーガードとして心許無い気もするが、春奈に限って危ない事は無いだろう。 「まぁせいぜい気を付けて帰れよ。」「あいよ、そっちも上手くやれよ。」「は?」 「大方この構図が春奈の計画なんだろう。」言われて見回すと外には大樹と春奈。 家の中には俺と小鳥。ってそう言えば小鳥やけに大人しかったな… 会をやるって話の時も何かおかしかったし。「じゃーね直行。次は元旦に騒がせて貰うから。」 「いや、勘弁。」俺達2人共が笑って言った。しかし冗談で済まされないかもな…まぁその時はその時か。 雪の中2人は薄暗い道を歩いて行った。何だかんだ言ってあいつ等ってどうなんだ? 「所で、小鳥はこれからどうするんだ?」「え?うんと、じゃあ片付け手伝ってくよ。」 何かぱっとしない、どこかしどろもどろと言った感じの小鳥。「わりぃな。頼む。」 玄関から戦争跡地、または台風通過後のようなリビングへと向かう。これは骨が折れそうだ… 「なぁ小鳥?」「何?」「もしかしてつまらなかったか?」気になっていた事を訊ねてみる。 「えっ?そんな事無いよ。面白かったよー」紙皿と割り箸を片付けながらにっこりと笑って言う。 のだがやはりどこかぎこちない。「あやしい…」「へっ?」「お前何か隠し事してるだろ。」「わわっ!?」 動揺したのか、持っていた物が手から弾けて床に落ちる。紙皿で良かった… 「全然そんな事無いよ。」「嘘付け、お前の嘘なんて簡単に分かるんだよ。」「うぅ…」 下を向いて落ち込んでいる。「まぁどうせお前が企む事なんて大した事無いだろうから、別に良いけどさ。」 何か物凄くテンションが下がっているのでとりあえずフォローを入れておく。 まぁ事実あいつらに比べたらそれこそキレ者の武将の戦略と子供の悪戯の差ぐらいだろう。 「でもね、勘違いだけはしないでね。」「ん?」突如小鳥が口を開く。 「本当に今日は楽しかったよ。ただ、ちょっと緊張してて…」段々と語気が弱くなる。 「は?緊張?何がだよ。」「ううん、何でもないの。さっ、片付けしよ?」「…そうだな、早くしないと暗くなっちまう。」 何か腑に落ちないが、まぁ別にテンションが低いって訳じゃ無いって事が分かったから良いか。 ――――――――――――――――――――――――――――――――― 「ふぅ、やっと終わった…」「結構時間掛かったね。」「あぁ、あいつ等にも手伝わせれば良かった。」 片付けが終わった頃にはすっかり暗くなっていた。整頓された中でテーブルに皿に乗ったケーキがあった。 ケーキ取りゲームをやってなお余ってしまった半端物でたいした量じゃ無い。 「なぁ小鳥、折角だしケーキ食ってけよ。片付けのご褒美だ。」「うん、ありがと。」 小鳥の事だからお腹いっぱいとか言うかと思ったが片付けで少し腹も減ったのだろうか? とりあえずケーキの処理に成功しそうだ。それから2人で席に着いて均等にケーキを分ける。 生クリームたっぷりのショートケーキで、小鳥の分の上にはサンタが乗っている。 「これ良いの?」「あぁ、いらねぇし。それにどうせ食えねだろ。」「でも嬉しいな。」 サンタを貰えた事が嬉しいのか、それとも…俺がサンタを譲ってくれた事が嬉しいのか?どっちでも良いか。 2人でケーキを食べる。先程までの騒がしい雰囲気とは違っていて、何だか緊張してしまう。 小さなケーキは簡単に無くなり最後の皿を片付けて本当に今日の会は終了した。 「もう大分遅いし、帰った方が良いんじゃないか?」「ぁ…う、ん。そうだね…」小鳥は何か歯切れが悪い。 「どうする?送ってくか?つってもすぐそこだけどな。」笑って言ったが一方の小鳥は「あ…良いよ。だいじょぶ。」 どうにも返事にキレがない。まぁ元からトロい奴ではあったが、またそう言うのとは違う歯切れの悪さだ。 「そっか、分かった。」不審に思いながらも一緒に玄関先へと向う。外は大分真っ暗だ。ドアを開けると冷たい夜風とぱらぱらと雪が入り込む。 「じゃあな小鳥。」「―ナオ君!」「ん?」「ぁ…じゃあね。」「?おぉ。気ぃ付けて帰れよ。」 少し焦っているような、様子のおかしい小鳥を見送る。さてと、俺は寒い玄関からリビングへと戻る。 ソファーにぼふんと倒れ込み色々と思いを巡らせる。春奈や大樹はおちょくってたが俺だって健全な男である訳で… 恋人らしい事をしたくない訳が無い。だが相手が小鳥なだけに俺からと言うのは少し嫌だ。 小鳥がそう言う事をしたいと思うまで、俺の方から切り出すのは何か小鳥の意に反する気がするのだ。 どうせ小鳥の事だ。「ナオ君が言うなら」とか言って俺が無茶言っても断らないのでは無いだろうか。 だからこそ俺から切り出してはいけないんだと思う。「難儀だよなぁ…」 そうなると一体何時になる事やら…などと落ち込んでいると、 ピンポーン。唐突に呼び鈴がなって少し吃驚する。 玄関へと向いドアを開けるとそこには小鳥がいた。 走って来たのだろうか?頬は赤く、呼吸もなんだか落ちついていない。 「あ、あのねッ。」「どうした?」「忘れ物、しちゃったの…」「忘れ物?何だよ。」 「えっとね。 」何かを言っているようなのだがとても小さくて聞きとれない。 「聞こえないって。もう1回言ってくれよ。」「その… 」相変わらず、消え入りそうな声で聞き取る事は出来ない。 「わり、もう1回。」何とか聞き取ろうと少し屈んで小鳥の高さに合わせる。と 「んッ?」唇に柔らかい感触。 吃驚して見開いた目にはあり得ない程とても近くにある、目を閉じた小鳥の顔。 俺が屈んでもなおまだ足りず、つま先立ちをして俺に優しく唇を合わせる小鳥。 ほんの数秒の出来事。ただそれがとても長く感じられた。 ゆっくりと唇を離し小鳥は今度こそ綺麗に笑った。それはまるで真冬に咲いたヒマワリの様に見えた。 小鳥は離した唇に手をあてて「ケーキの味がする…」と呟いた。そう言えばさっきまでケーキ食ってたっけ。 「なぁ、小鳥…」「これが忘れ物だよっ♪」恥かしさに耐えられなくなったのか、俺の言葉を遮って慌てて言う小鳥。 「じゃあねナオ君ッ!」そのままぴゅーっと、逃げる様に行ってしまった。 俺はすっかり冷えきった玄関で、ただ呆然とほてった身体で立ち竦んでいた。 小鳥もやっぱり、高校生の女の子なんだな… ――――――――――――――――――――――――――――――――― 「お前って、本当にお節介だよな。」「何よ。」薄暗い道を歩きながら唐突に大樹が口を開く。 「直行と小鳥の為にこんな事までして。」「別に、ついでよついで。私達だって楽しんだ訳だし。それに…」 「それに?」「私はただきっかけを作るだけ。後は2人しだいでしょ。」「まぁそうだな。」 「それに…」「またかよ。」「忘れてる様だけど、アンタの為にもなってるでしょ。」 春奈は薄っすらと笑って言う。「確かに、そりゃどうも。」大樹は軽く手をふって言う。 春奈はおもむろに携帯を取り出す。暗い夜道に携帯の液晶が眩しく光る。 ぴっとボタンを押すと夏にとった直行の告白の台詞が静かに流れる。 「こんなの何時までも残してたら失礼かな?」「直行にか?」「違う、大樹に。」 「さぁな。」はぐらかす様に言うが何だかそれが逆に悪いと思ってしまう。そう思わせる何かが大樹にはある気がする。 「やっぱりさ、未練がましいってのは私のキャラじゃ無いよね。」「別に、実はそう言うキャラなんだろ。」 「皆には黙っててよね。」冗談っぽく笑って言う。「口が滑るかも。」「その時は全力で阻止するから。」 はいはい、と大樹は受け流す様にさらっと言う。 春奈は再びぽちぽちと携帯を操作する。画面に大きく警告メッセージが出る。 「良いですよ、っと。」最後に1つ、決定ボタンを押して操作は終了する。 液晶画面いっぱいに「削除しました」と言う文字が表示された。「良しッ忘れたー!!」 「何だよ急に。」「綺麗さっぱり忘れてやった。これからは心気一転、新しい恋見つけるぞー!!」 「俺じゃ無いの?」「それはアンタ次第でしょ。」「まぁ確かに。」「でも良かった、今年中にすっきり出来て。」 晴れやかな顔で春奈は声をあげる。気がつけば2人の家の分かれ道まで来ていた。 「ちょっと早いけど、来年は良い年になると良いね。」「努力しよう。」「努力でどうこうなるの?」 「運ってのは自分で引き寄せるもんだ。」「えっ?」「何だよ。」「ちょっと格好良い事言うなぁって。」 「だろ、今年の俺は冴えてるんだ!」「もうそろそろ終わるけどね、今年。」「ぐはぁっ、それは痛い。」 「……」「……」「それじゃ。」「また。」 ――――――――――――――――――――――――――――――――― ぱたぱたと暗い夜道を走る小鳥。心臓はさっきからドキドキしっぱなしだ。 走っているからでは無い。もっと別の、羞恥と高揚の交ざったドキドキだ。 (私ナオ君とキス、したんだ…)それも自分から。それを思うと顔から火が出そうな程恥かしい。 今でも何だか唇に感触が残っている様で、今日はもう寝れないかもしれないのではと不安にさえなる。 ふと、キスをした時の直行の顔を思い出す。吃驚して目を丸く見開いて固まっていた。 「ナオ君可愛い♪」まさか小鳥に可愛いと言われるとは直行も思っても見ない事だったろう。 しかし、小鳥はそんな所も含めた直行が大好きだった。 たまにいじわるをする時もあるけれど、ずっとずっと一緒にいたい。もっと近付きたいと、そう思う。 小鳥はそれを少し早いが神様にお祈りした。空からは雪がゆっくりと舞い落ちる。 それは願いを快く受けてくれているように優しく綺麗に、小鳥の元へと届いた。 ―――――――――――――――――――――――――――――――― [昔の]後書き ごめんなさい。最後がどうもきまらなくて限り無く意味不&適当&文変です。 クオリティアップすると言ってこれかい。 ホントだらしないですね。 まぁそう言う自嘲は置いといて、『小さな~』シリーズもこれで最後。 正月編とかはありませんです。 えっと、一応小鳥と直行がメインシナリオですが、春奈と大樹も好きです。 何か普段直行に見せるのとは違う一面が、ある意味ツンデレ。 まぁ没ネタもちらほらあったりしますんで、それはまた後程何かあるかも? それと、今作最大の謎と思われる、直行が一発芸で何をやったのか!? これは秘密です。まぁ数少ないヒントから色々想像してみて下さい。 では、そろそろこの辺で。 H18、1/10(110番の日) [新しい]後書き 簡単に修正を入れさせて頂きました。 変更点は、『以外』→『意外』の誤字修正と ストーリー後半の小鳥が帰るところ。 修正前は最初から送らない事になってましたが今回見てのとおり一応送ろうという意思は見せております。 だって、男の子だもん♪ 本当はもう少し軽口を交えた物にしたかったのだが、やっぱりこの時の小鳥の心境を考えると上の空も良い所、そう言う展開は難しいのではと判断いたしました。 まぁそんな所ですかね? それと、[昔の]後書きで書いてある『正月編はありませんですぅ』と言うコメントですが… すまん、ありゃ嘘だった。 何かオラちょっとだけ書きたくなったゾ。 と言う訳でもしかしたら書くかも知れん。 ではでは、次会う時はその正月編か?或いは『秋風ドロップ』か? はたまた別の作品か? はたまた俺もう死んじゃってるのか? 兎に角、再会できたら幸いですね。 シメがオヤジギャグ並みの駄洒落か… 俺のおっさん化は結構進んでるのかもな。 ではの H19、6/1(チューインガムの日、らしい) さらに6日後 |